ソロス再来か

今年の世界経済フォーラム(ダボス会議)に、すでに引退表明をしたジョージ・ソロスが出席し、中国経済の見通しについてブルームバーグ紙のインタビューに対して、「中国経済のハードランディングを予想するのではなく、そのハードランディングはすでに現れ、我々はこれを観察しているだけだ。しかし、中国はさまざまな資源を有し、十分対処できるだろう。中国政府が取れる政策空間は他国より随分と多く、また3兆ドル以上の外貨準備もある」と語ったのです。

ソロス氏の発言の一部だけ取り上げられ中国悲観論と解読されて、人民元の切下げ、米国の利上げ、供給者側改革はスタートしたばかりで、構造転換も道半ばと言う時に、ヘッジファンドが香港ドルと香港株式市場をターゲットにした中国売りがまた始まったのではないかとの議論が再燃しています。

歴史はそっくりそのまま繰り返すことはないが、共通点や似通う点などがあることは否定しがたいことです。中国売り(観測)の背景には、1997年に発生したアジアの金融危機の際の外部と内部環境に似ている点があると指摘されています。

まず外部環境として、米ドルは他国の通貨に対して強くなり、FRBの利上げで米ドルは再び米国に還流し始めたこと、米ドルペッグ制を取っている香港ドルの為替レートも高くなり、サービス業の競争力が落ちてきたこと、香港の不動産価格が高騰し、バブルになりつつあること、また内部環境として、アジアの金融危機で中国政府のマクロコントロール政策で不動産市場は低迷し、構造転換(国有企業改革)が困難を極めていること、日本を含め、周辺国の通貨が対米ドルで切下げを相次ぐ中、中国政府は切下げをしないことを宣言したが、マーケットでは、人民元の切り下げ観測が根強く、中国経済の先行きに悲観論が高まっていたのです。

そのような時期に、ヘッジファンドに狙われていたタイバーツは1997年7月2日、米ドルとペッグ制と取っていた為替レートを固定相場制から変動相場性に切り替えると宣言され、バーツの暴落が起こり金融危機の幕開けとなったのです。タイで大きな利益を手にしたヘッジファンドはマレーシア、フィリピン、インドネシア、韓国に転戦し、いずれもその国の通貨を狙撃して、莫大な利益を上げた勢いで1998年香港ドルを空売りの対象に香港に上陸したのです。

香港はイギリスの統治から中国に返還された翌年で、香港政庁の統治能力も試された、のちに「香港金融保衛の戦い」とも言われたヘッジファンドとの戦いに挑むことになります。

当時外貨準備高は日本、中国内陸に続く世界3位の香港で、ヘッジファンドのとの戦いに最終的に「勝利宣言」をしたことは周知の通りですが、日本人投資家も多く投資した上海や北京の不動産事情を調べるため、現地入りした私の眼には、至る所に工事がストップしたマンションやオフィスビルが立ち並び、外資系、中でも台湾、香港、マレーシアなどのデベロッパーや開発会社の後続資金がショートし、夜逃げや放棄と言ったトラブル物件が続出していたことが写っていました。

1997年や1998年当時のことを彷彿させるようなこと――人民元の切下げと米国の利上げ、構造転換の真っただ中で、株式市場も内陸、香港共に下落している上、世界経済の不透明に香港不動産のバブルなどが昨年から年初にかけて起きています。

中国の外貨準備高は12月に1079億米ドルが減少したのに続き、1月も994億米ドルが減少したことが昨日(7日)明らかになりました。

香港金融管理局の総裁を始め、政庁関係者も香港ドルペッグ制を死守する用意があると年明けから発言を相次いでいます。1998年当時比では、香港の外貨準備も経済規模も大きく変わっています。簡単に狙われる対象ではなくなっていることも事実ですが、ヘッジファンドも隙のないところを狙っても利益にはなりません。旧正月明けの市場(為替、株式、先物取引)を注意深く見守る必要があります。

 

 

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