直通車は相場の引き金

深センと香港市場の相互乗り入れの「直通車」は、市場の期待通り、6月または7月の返還記念日に開通時期の発表はありませんでした。上海と香港の直通車は2014年4月に開通を発表し、実際の運用(取引)開始はその年の11月で、その間7か月を要したのです。

2014年11月と言えば、ちょうど中国A株が7年ぶりの大相場を迎えた時期で、「直通車」は相乗りした形で順調に滑り出し、相乗効果でH株(市場)も盛り上がり、財を成した投資家を輩出しました。「せっかく開通したのに相場にはプラスにはならなかった」とは、開通のタイミングを見計らっている管理監督機関の臨むところではないだろうと市場で開通時期未定の原因の一つだと分析されています。

イギリスのEU離脱投票や米国の利上げ、MSCIのA株指数組み入れなど市場に影響を与える出来事が相次ぐ中、「技術的にまだ解決できていないことがある」(証券委劉士余議長)として、時期をあいまいにした理由の一つとも考えられます。

大型国有や金融株が多い上海とは違い、VC企業や製造、不動産企業が多い深セン市場で、投資適格者も残高50万元の上海・香港に対して、ハードルを引き下げられるだろうと言われる深セン・香港。投資家層もぐんと広がり、年初のサーキットブレーカー制の中止という制度設計の失敗は二度と許されないことも一因だと考えられます。

一連の失政で、責任を取る形で証券委(CSRC)のトップが辞任し、その後任は慎重を期することも納得しないことでもありません。何より、金融市場不安定の今、資金の流出が最大の懸念事項でもあります。5日の人民元対米ドル為替レートの仲値は2010年12月以来の安値を迎え、昨年8月の元切り下げからすでに10%近くの元安となっています。

深セン・香港直通車期待もあって、4月から以降、H株の買い越しが続き、6月24日のイギリス国民投票の日は、これまで最大の57億元の買い越しとなっています。そして今月4日は約10億元、昨日(5日)は約15億元と「直通車」経由香港市場に資金が流れていることが明らかになっています。

上海・香港直通車の限度額は2500億元で、5日現在の未使用額は572億元、8月下旬で、限度額いっぱいになるだろうと試算されています。限度額の引き上げをと香港証券取引所の李小加総裁は会見で述べましたが、直通車の開通時期と合わせて限度額の引き上げもあるのでは、と憶測されています。

米の利上げ観測で、さらなる元安が市場の心理となり、米ドルとペッグしている香港ドルが人民元の避難先となるため、上記買い越しの一因ともなっています。資金の流出を堰き止めようという説が成り立つなら、直通車の開通はもう少し先かもしれません。いずれにしても、直通車の開通は相場の引き金になることは間違いありません。監督機関も弾が少ない中で市場に最も利するタイミングを狙っているかもしれませんが、個人投資家としてターゲットを絞った方が良いでしょう。

 

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