賛否両論の不良債権株式化 

銀行保有の債権を株式に転換し、債権者から株主に立場が変わりますが、既存の株主にどんな影響が考えられるのでしょうか。

全人代閉会後の記者会見で李克強首相は、銀行の不良債権増を認めつつも、商業銀行の自己資本比率は国際基準(国内業務銀行4%、国際業務銀行8%)を上回る13%を確保し、リスクに耐えうる能力が十分にあるとして、「多次元の資本市場を推進し、マーケットを通して債権を株式に転換させることで企業のレバレッジ(負債比率)を引き下げることができる」と不良債権の株式化は選択肢の一つだとの考えを示しました。 株式市場では、すでにその動きが出ています。造船や海上設備を製造する中国華栄(1101)は今月8日(火)、債権者銀行22行に141億株の新株とサプライヤー債権者、1000社に対して30株の新株を発行すると公告で発表しました。

3月9日の「徐さんの中国株」でも触れている通り、造船業も生産過剰業種の一つです。同社は2004年に設立された民間造船の最大手で、2011年までの新規受注は数年連続中国一を維持していたが、2012年から以降競争激化で業績がダウンし、2013年には86億、2014年には77億元の赤字を出して最盛時30000人いた社員は現在100名前後で留守番している状態です。

2010年に香港市場に上場し、株価は上場時の8香港ドルから現在の0.25ドル前後で推移していることを見ても分かる通り、業績改善の気配が見せることもなく今日に至っております。

同社によると、2015年6月30日まで、金融機関での負債総額は224億4400万元(約267億香港ドル)、その内179億元はすでに返済期限をオーバーしたか、または今年の6月で期限を迎えると言います。債務返済のため、新株の発行を以て充当するとこれまでのいきさつを説明しています。

同社公告によると、新株は発行済み株式の88.6%に相当し、1株当たり1.2香港ドル(今月29日に5株を1株に併合――株式縮小)で、新株は171億5000万元に相当するということです。

同社における最大の債権者は中国銀行で債権総額は63億元、新株発行後同社での持ち株比率は14%まで増え同社最大の株主になります。

不良債権の株式化により、企業側の債務が消え、貸出銀行の不良債権が縮小し倒産企業も出さないことで、みんながハッピーな結果になるようですが、1)銀行が最大の株主になって企業業績が良くなるかどうか、2)既存株主の持ち株は稀釈され、縮小で理論上の価値は変わらないが、株数はほぼ倍増になり、株価の上昇は当分期待できそうにありません。

また最大の難関は1995年発効の「商業銀行法」に抵触することです。「商業銀行法」の規則では、商業銀行として域内で信託の投資や証券経営業務に携わってはならず、自社用以外の不動産投資と銀行以外の金融機関や企業に直接投資してはならないと規定されています。しかし、同銀行法では同時に「国が特別に定めることに適用しない」との条項もあってこれが今回の適用の法的解釈ではないかと指摘されます。

債権と株式は企業再生の際、優先順位は違います。債権が優先され、株式は二の次になります。同社発表後、すでに市場では賛否両論が出ています。日本は銀行や企業の不良債権処理の先輩格に当たり、不良債権の株式化について投資家の立場でご判断頂けるだろうと思います。

銀行の株価について、以前から「配当もあってPERは安い水準にもかかわらず余り買われていない」と触れております。こういったことが背景にあると考えて宜しいのではないでしょうか。

 

 

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次回の中国勉強会は4月7日都内で開催。中国企業の最新情報に関心のある方は当社HPをご参照ください。

インド視察団は今週日曜日出発。インドでは証券取引所や学校なども訪問。その見聞も合わせてご報告。

 

 

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