アント・フィナンシャルの上場で恩恵を アリババグループ

 「杭州市の不動産はまた急騰しそうだ」。7月20日、螞蟻科技集団(アント・フィナンシャル――旧社名「螞蟻金融服務」)が上海と香港で同時上場の計画を発表すると、SNSではこのような書き込みが飛び交っていました。螞蟻科技の上場でまたも万単位の億万長者が本社所在地の杭州で誕生するからです。同じく香港上場の中国動向(3818)や中国人寿(2628)など同社原始株保有の銘柄もこぞって上昇しています。しかし親会社のアリババ(9988)の株価は最近上がるかと思ったらまだ下がるという一進一退を繰り返していますが、螞蟻科技の上場で親会社の株価への影響は?

 ATMと例えられるアリババ、テンセント、美団点評の3社の株価はTとMが右肩上がりを続けているのに対してAだけが一進一退を繰り返しています。米中対立が米上場のアリババへの影響があることは否めないが、今月初め、アリババが米証券取引委員会(SEC)に提出した会計年度の開示書類では、同社大株主が持ち株を大幅に減らしていることが明らかになりました。報告書によると、今月2日現在、創業者馬雲(ジャック・マー)氏の持ち株比率は昨年の6.2%から4.8%へ、創業メンバーの蔡崇信(ジョセフ・ツァイ)氏は2.0%から1.6%へ、筆頭株主のソフトバンクGが25.8%から24.9%へとそれぞれの持ち株比率を減らしたということです。市場では大株主が持ち株を売却したのではと憶測されていますが、アリババの株価が史上最高値を更新している中で、大株主による売却もありうる話ですが、香港市場での新規上場など発行済株式の増加による希薄化が最大の要因で、一段落したら安定的に上昇に向かうことになるだろうと考えられます。

 螞蟻科技の「独立」についてこれまで日本でも断片的に伝えられていますが、もともとアリババ傘下ECサイト、淘宝(タオバオ)の決済用ツールで、事業の拡大に伴い、金融ライセンスが必要となりますが、2008年の世界的金融危機の後、中国政府は金融ライセンスの管理を強化し、2010年に外資系企業には完全なライスセンスを付与しない方針を打ち出しています。これを察知したアリババ創業者のジャック・マー氏は2009年7月に董事会(取締役会)を招集し、アント・フィナンシャル前身の支付宝(アリペイ)の株式70%を国内の会社に譲渡することを決定したのです。これに対して大株主のソフトバンクGの孫正義氏は理解を示したが、株主2位の米Yahooが異論を唱え、一時係争まで持ち込まれようとしました。約2年間の意思疎通で2011年7月、アリババグループとソフトバンクG、米Yahooの3社間でアリペイの譲渡について合意に達し、アリペイの親会社(現在の螞蟻科技)が上場の際、アリババグループに対して時価総額の37.5%(下限は20億ドル、上限は60億ドル)を現金で還元することで一致したので、アリペイはアリババから完全に独立したのです。しかし、前回のコラムでも触れたように、螞蟻科技は「もう一つのアリババができた」と言われるくらい急速に拡大しています。

 2018年2月1日、アリババと螞蟻科技前身の螞蟻金融服務との間で、戦略的協議を経てアリババの中国国内子会社経由螞蟻金融服務の株式33%を取得したと発表し、同社は再びアリババの傘下に入ったのです。

 今月10日、アリババは2020年度と第1四半期の決算報告を発表しました。その後13日、螞蟻金融服務の株主構成も公表しました。前述アリババが33%を保有しているほか、ジャック・マーは8.8%、君瀚と君澳という国内登録の会社が併せて50%保有していることを明らかにしています。前者の君瀚はアリババグループの社員が、後者の君澳はアリババグループのパートナーがそれぞれ株主を務める会社で、アリババ系の持ち株比率は83%に達していることが明らかになっています。

 このように螞蟻科技の上場は持ち株の社員からも億万長者の誕生が確実で、33%を保有しているアリババも時価総額2千億ドルと推測される中、最低660億ドルをあらたな収益として計上することにもなりますので、アリババの株価の上昇にも寄与するだろうと見られます。
同社上場の動きをこのコラムで随時フォローして参ります。皆さんも注目してみてください。

 

 

 

 

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