石薬集団の会社説明会で会社側は一般投資家更に海外からの投資家として中国の医薬品流通にかなり専門的な質問をしたことに驚かされたようです。それもそのはず。中国の医薬品の流通はだいぶ複雑で、業界の人間でなければなかなか理解できないだろうと思われるからです。
まず下の表をご覧ください。四環医薬の2012年から2015年までの売上高、利益率の推移を一覧にしたものです。取引停止の一因となる決算報告書に訂正が求められたので上段は訂正後、下段は訂正前のものです。
訂正後 売上高 粗利 粗利率(%) 純利益 純利益率(%)
2015年 31.67 22.28 70.30 20.62 65.10
2014年 30.84 21.11 68.45 16.71 54.18
2013年 25.86 14.55 56.26 12.84 49.65
2012年 8.83 10.42 55.34 8.60 45.67(単位は億元)
訂正前 売上高 粗利 粗利率(%) 純利益 純利益率(%)
2015年 31.67 22.28 70.30 20.62 65.10
2014年 30.84 21.11 68.45 16.71 54.18
2013年 47.32 36.99 78.17 13.03 27.54
2012年 30.42 22.89 75.25 9.04 29.72(単位は億元)
変化に気づきましたでしょうか。まず変わったのは、2012、13年の2年間の数字です。そして、売上高こそ減り、粗利も凡そ半分程度に減少しましたが、しかし純利益は多少減ったものの、安定的だと言えることですし、何しろ、訂正後の利益率はむしろ大幅に上昇していることがお分かりいただけます。
どうしてこんなことができるのでしょうか。実は四環医薬だけではなく、中国の製薬会社で、「京華投資視察団」も訪問した康哲薬業や中国生物製薬、石薬集団ともにこのような会計処理をしてきたのです。つまり製薬会社から病院までの流通プロセス、いわゆるエージェントのマージンを確保するための会計方法です。
例を挙げるとわかりやすいのですが、50元の薬品を100元でエージェントに卸して、差額の50元を後日エージェントにキックバックするシステムなので、製薬会社の売上高こそ変化するものの、利益や利益率には影響はしないことで、多くの会社もこの方式を採用したのですが、問題はキックバックのやり方にありました。かつて中国生物製薬もGSK汚職事件で摘発され、処分を受けましたが、四環医薬のエージェントは(第三者ではなく)自社社員がかかわった会社であることに問題視されています。
この問題を克服するため、政府は今年の4月から「2票制」を導入(選挙ではありません)。薬品が出荷から投与までのプロセスを追跡するためもあって、流通のための領収書(伝票)を製薬会社からエージェントへ、そしてエージェントから医療機関への2回の伝票発行を制限し、これ以上の流通過程を入れさせないことにしました。
四環医薬は「運悪く」、キックバックに関して告発され、取引停止まで追いやられましたが、流通システムをガラス張りにする改革こそ本丸かと考えます。これに対する四環医薬の対処や今後の見通しに関して「四環医薬 質疑応答」をどうぞご参照ください。