香港市場、更に増えるTOB

 中国中薬(0570)が私有化(TOBによる上場廃止)を発表してから株価が急騰しました。取引停止前の株価3.43HKDに対して同社が提示したTOB価格4.6HKDとの差額は34%もあるので、これを狙おうと買いが集まったのです。いままでのTOBでプレミアムだけを狙う資金の「成功例」もあって出来高が通常の10倍以上膨らんでいます。ただ、同社のTOBはまだ発表の段階で、株主の反対票が10%でも超えると同計画が「失効」してしまいます。昨年10月にTOB計画を発表した海通国際証券は今年1月、計画通り私有化し、上場廃止となったのです。

 海通国際証券の私有化について、「証券会社もTOBの時代」など3回にわたってコラムで取り上げているが、株主投票と法的手続きを経て今年の1月11日、香港市場での上場を廃止し、非公開化したのです。香港市場に進出して14年、中国資本の証券会社としてIPO(新規公開株)引受件数が一時トップに躍進した会社であるだけに市場へのインパクトが大きかったのです。
 中国中薬の場合、グループ内企業との競合を回避し、業務の整理統合という目的もあるとされるが、海通国際証券も同様に親会社の海通証券との業務の重複も指摘されます。
 共通の理由として香港市場の流動性不足が列挙されているが、証券市場の特別な事情もあると見られます。
 香港市場は地場証券と外資系証券が主導した市場でしたが、2008年の世界的金融危機の影響を受け、一部外資系が撤退したのを狙って海通国際や中信証券、国泰君安など中国資本の証券会社が「国際化」の波に乗って相次ぎ国際金融センターの香港に進出します。
 2019年までH株の上場だけで、中国資本の証券会社が14社にもなり、投資銀行の市場シェアは50%超と国際投資銀行を逆転したのです。
 時として中国の不動産業が高度成長の時期と重なり金利の低い海外資金に対する需要もあり、ドル債券の発行や国内企業の香港上場ラッシュに中国系証券の黄金の10年を迎えたのです。
 政府もQFII(適格外国機関投資家制度)やQDII(適格国内機関投資家制度)の導入で金融市場の開放を進めていたが、コロナ禍以降、状況が一変します。
 21年以降、米が利上げに転じると同時に、中国不動産企業のデフォルトが表面化し、証券会社も赤字転落が相次ぎ、海通国際も22年には65億香港ドルの赤字を計上したのです。
 これに追い打ちをかけるように、23年10月13日、監督官庁が香港上場の証券会社に対して国内個人投資家の米株や香港株の取次業務をしてはならないという通達を発表し、オフショア口座の新規開設を事実上禁止したのです。国内富裕層の海外投資を支援する道が閉ざされ、外資系と比べて中国系証券会社の国内市場開拓という長所も生かせなくなったのです。
 海通国際証券が上場廃止となったが、これが最後ではないと見ています。

 

 

 

 

 

 

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